お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “ハロウィンのご褒美?”
 


結局は10月の半ばまで、
30度以上、ところによっては連日の真夏日という
途轍もない残暑が重い尻を据え続けたその上。
これもまた夏の暑さの置き土産、
太平洋の海水温がなかなか下がらなかったため、
結構な勢力の台風が次から次へと生まれの、
日本列島まで衰えもせずに北上しのした、
まったくもって困った秋の初めだったれど。
それこそどういう冗談か、
カレンダーの丁度半分、
15日16日を境にした いきなりの急転直下、
やはり台風の急襲のせいながら、
気温が15度近くも下がった“不意打ち”を食らわせてもくださって。

 『そうまで日本人は傲慢であり続けたというのかなぁ。』

夏は暑いに決まっているだろ、それを何だ、
金にあかせて、人工の冷気で満たした分厚い壁の中に引きこもり、
空を仰ぎもしないとは、と。
天におわすのだろう、人ならぬ奇跡の存在が、
あまりの不敬へ腹を立てたのやも知れぬ…なんて。
それは数多くの幻想小説を書いている割に
本人は凄まじいほど現実主義の勘兵衛が、
だっていうのにそんなことを言い出すくらいだから、

 「やはり尋常じゃあない秋だったのだなぁって。」
 「シチさん、何か微妙にややこしいですよ、それって。」

お土産に『アンダンテ』のモンブランとレアチーズケーキ、
シュークリームに、カシスのムースタルトなどなどという、
季節のケーキの盛り合わせを提げてのご訪問くださった、
某社の小説月刊誌 編集部所属の林田さんが。
日頃のデキるお顔はどこへやら、
きれいな拳を握りつつ、妙な物言いをする敏腕秘書殿を
苦笑交じりにどうどうどうと窘めたほど、
今年の夏の異常さは凄かったということで。
そんなこんなに揉みくちゃにされたせいか、
ハッと気がつけば、明日はもう11月だったりする秋のあざとさよ。

 「あざとい…ですかね。」
 「あざといですよぉ。」

まだまだ暑いと思わせといて
衣替えをなかなかさせてくれなんだくせに。
今度は一気に、
秋どころか冬を見越した色々を用意しなくちゃなりません。

 「カーテンやらソファーのラグやらを
  大慌てで麻地のからキルティングへ取り替えましたし、
  ラグはもしかしたらすぐにも冬用のへ替えることに成りかねない。
  毛布もクロークから引っ張り出して大急ぎで洗い直しましたし、
  もちょっとしたらば、コタツも出さねばなりません。」

あの暑さからの急変ですからね、
しかも直前まで雨催いだったから、
トレーナーとか洗えなくって洗っても乾かなくって…と。

 「わたし独身者だから、
  その大変さが今一つ同感出来なくてすいません。」
 「済まぬとおもうなら、とっとと結婚なさい。」

そして、こういう話題に共感してくれるだろう奥様を、
早いトコわたしに紹介してくださいなと、
やっぱり妙なことを言い続ける七郎次ではあったが、
さすがにこの辺りは、

 “林田くんを からこうておるな。”

清涼な秋の空気にいや映える、薫り高い紅茶を堪能しつつ、
カップの陰で島谷せんせえが苦笑をしておいで。
本日は原稿の受取や打ち合わせでの来訪ではなくて、

 「にゃん・みゅ〜vv」
 「にぃあ・まぁうvv」

甘い甘いケーキの香りに誘われたか、
島田家ご自慢の二匹、もとえ二人の美猫様たちが、
お客様のお膝へかわゆく寄って来たのへと、

 「お。おいでですね、ハロウィンの主役様がたvv」

平八が常以上に眸を細め、
テーブルの上へ広げられてあったムック誌を手のひらで撫でる。
いつぞやに出版した仔猫の写真集の第二弾、
ハロウィンやクリスマスに焦点を合わせた、
ちょみっと仮装コスプレも盛ってますという愛らしい姿、
こちらの ちみっ子たちもたくさん撮影された上、
ポストカードにも採用されての
売り上げへの貢献をねぎらい讃える意味もあってのこと。
ケーキとそれから、
スペシャル・ササミジャーキーの詰め合わせも
贈呈される予定となっており。

 「いやもう、
  この三角帽子への戯れようが編集でもウケまくりでvv」
 「だよねぇvv」

小さな肢体に合わせた、
魔法使いやカボチャのかぶりものコスプレも愛らしかったが、
人間用の小道具にじゃれつく愛くるしい姿が
何とも言えぬと反響も高かったようで。
大きなツバをテーブルに伏せた、シルクサテンの黒い三角帽子へ、
メインクーンちゃんの方が
尖った先っぽが撥ねでもしたか、捕まえようと後足で立って見せれば。
生地のつややかな黒へ紛れそうな毛並みの小さな黒猫さんの方は、
前足としなやかな背中をテーブルへ低く伏せての、
一丁前に何かへ飛び掛かるようなポーズを取っていて、
それが…メインクーンさんの挑発を
受けて立つぞとしているように見えなくもなくて。
そうかと思えば、陶器製のジャック・オ・ランタンへ幼い牙を立てて、
ガジガジ齧っているメインクーンさんや、
その傍らで、くぁあぁっと大あくびをする黒猫さん。
ジンジャークッキーの形のオーナメント、
両側で咥えて引っ張りっこしている愛らしさなどが、
どれも甲乙つけがたい人気で。
そこでと、別刷りのポストカードにされたところ、
こちらも売り上げ好調だとあって、

 「ケーキとドーナツ、ジャーキーを敢闘賞として贈ります。」
 「にゃ?」
 「まぁう、にぃvv」

一応は賞状もついてたが、
そっちは当たり前のことながら完全に無視されて。
モンブランへ頭から突っ込もうとした久蔵ちゃんだったのを、
七郎次さんがはっしと捕まえ。
一方では、クロちゃんがドーナツの真ん中の穴からお顔を出したのへ、
勘兵衛様がツボだったか、苦笑が止まらなくなってしまわれたり。
いよいよの冬も間近な十月末日だというに、
それは温かい笑みが絶えない、
島田さんチのリビングだったそうでございますvv






   〜Fine〜 13.10.31.


  *すぐ前のお話は、残暑が少しは引いたかな?
   というお話でした。ええすぐ裏切られましたがね。
(ふーんだ)
   何ともとんでもない夏だったこの1年で、
   これで冬は極寒かも知れんそうなので、
   勘兵衛様の寝言じゃないですが、
   何かどっかで途轍もない悪さをしたのか、日本人。
   ……願わくば、
   これが毎年のことへ定着しませんように。(切望)

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